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が鋳型としてその上でタンパク質分子を合成することは化学構造上不可能であることが分っており、必要に応じてm−RNA(メッセンジャーRNA)分子に読み取られ、タンパク質合成工場であるリボソームに輸送される。m−RNAが鋳型となって、t−RNA(転移RNA)との共役な反応によってアミノ酸配列に翻訳される。さらに、酵素の作用によってアミノ酸は重合してタンパク質分子が作られる(武田,1997)。
m−RNA、t−RNA共にDNAの複製によって作り出されるが、t−RNAはm−RNAと鍵と鍵穴のような認識関係を持つばかりでなくアミノ酸を固定する担体ともなり、合成反応が正確に実行されるよう工夫されている(図4−23)。このようなDNA→RNA→タンパク質の系は一見非常に複雑であるが、正確な情報伝達の過程としては巧妙な筋道から成り立っており非常に合理的である(Bray,1995)。
このようなプロセスを経て合成されたタンパク質には、DNAの情報が記録されている。興味深いことにこのアミノ酸配列は、タンパク質の折り畳みを引き起こし(Scheraga,1981)、その立体的障害を利用して酵素反応による再結合などの反応をオン−オフするという巧みな作用を果たしている(図4−24)。RNAをテンプレートして作られたタンパク質のアミノ酸配列は、化学反応をスイッチする仕組があるのである。
タンパク質の折り畳みは、立体配座(コンフォメーション、conformation)と呼ばれる。立体配座が反応を制御することは、有機化学の分野では良く知られた事実である。生体の中で立体配座が作用する場合、同時に化学反応によって生じるエネルギーをも制御することを意味する。Ji(1991)は、タンパク質のこのような特性をもう一歩すすめて、生体中での情報とエネルギーの担い手コンフォルモン(conformon)という概念を提唱している(表4−5)。コンフォルモンは、分子の立体配座を意味するConformationと離散的な実体を現わす接尾語−onより作り出された造語である。コンフォルモンの仮説は、タンパク質分子内の塩基配列に対応して立体配座に歪みと折り畳み構造から反応の選択性が現われ、エネルギーと情報が分子によって運ばれるという考え方である。Jiによれば、コンフォルモンは、プリゴジーヌによる散逸構造の形成に協同的に作用し、生体の形態発現を引き起こす。このような作用は細胞の中で円環的に成立しており、生体システムの維持が図られることになる。
(2) 学ぶべき生命の機能
? 自己相補性原理による分子複製
DNA分子の自己複製メカニズムを理解することは、これまでの多くの科学者の目標となってきた。自己複製過程を示す有機合成法として近年興味深い自己触媒反応系が見い出された。それは、次のような反応である。テンプレートとなる分子をTとする。このTと同じ分子を複製するための出発となる分子をAおよびEと

 

 

 

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